私の研究と教育に関する抱負

ナベゼミHPのリニューアルを機に、これまで皆さんには私の研究あるいは教育に関する考え方をキチンと話したことはありませんでしたので、この際に「マジメ」に文章化してみました。

 

かつて大学時代「なぜ経済学を学ばなければならないのか」良く理解できなかった。学部の選択を間違ったのでは、と真剣に悩んでいた。

こうした状態で迎えた3年生の授業で私は「マーケティング」と「商業経済論(流通論)」に出会った。

目が覚めた、とはまさにこのことだろう。素直に「面白い」と感じた。

 

そう感じた理由は2つあろう。1つはマーケティングなり流通なり、それらが扱う事象は身の回りのものであり、親近感を持って接することが出来たからであろう。

しかし、もっと大きな要因は授業を行った恩師田島義博先生のご教授の方法にあるであろう。

まず、事例から入る。事例の様々な背景やエピソードをユーモアを交えながら説明する。示唆される事例を整理する。理論的に知っておくべきことがあれば最後に伝える。まさにこの一連の流れは多くの学生の興味をごく自然に駆り立てていった。

私が理想とする研究者の姿、教鞭を握るスタイルはまさに田島先生である。

 

大学教員はまだ雲の上の存在であったが、もう少し勉強したいと真剣に考え大学院へ進学することにした。机上の勉学で物足りなくなり、修士で一区切りし実務を経験する道を積極的に選んだ。「いろいろな業界を下から見ることのできる小売業に行ってやろう」と考えた。

そこで私は貴重な体験をすることになる。業界でいち早く株式会社イトーヨーカ堂にPOSが導入され、そのデータをどのように活用し営業の成果を上げていくか、に直面した。データは販売結果を如実に表してくれたが我々は消費者、購買者のことについて何も知り得ていないことに驚愕したことが研究者としての出発点となる。消費者の購買意欲を刺激しうる小売店舗の進化こそ、経済活性化の原点であり、それは小売業のみならずメーカー、卸売業等、業界の全ての参画者の共通課題である。また、この領域はマーケティング研究において最も研究が遅れていることも知った。

 

今後も研究の第一テーマとしては「店舗内購買行動」を起点・中心としたマーケティングの実践方法の再構築とし、併せて利便性の高い買い物環境を実現することにより「豊かなまちと生活」をどのように実践するかを追究していくことを私のライフワークとすることを決めた。

 

私自身の経験からも「ゼミこそ大学」と考え、これまで最も注力してゼミ生を大切に育ててきた。「大学に卒業はあっても、ゼミに卒業はなし」という信条を持って卒業生たちとも接してきた。そうしたプロセスを通じて私なりの教育観も醸成されてきたように思う。それらは下記7項目であり、大学教育の抱負そのものである。


  1. 「もっと~したい」と思ってもらう。
    私の人生を大きく変えた契機は「もっと~したい」と素直に思うことができた時であり、更なる自分の可能性を引き出してくれた。
    私がそうであったように学生達にも「もっと~したい」と心から感じてもらう機会を提供するのが使命と考えている。

  2. よく遊び、よく学ぶ
    勉強ばかりしていると生産性は落ちてくる。まず遊ぶ、その後に勉強する。すると乾いた砂に水が浸み込むようにすんなりと頭に入ってくる。
    むしろ遊びながら、これも勉強だと考えて遊ぶ。そうすると勉強が苦でなくなってくる。ガリ勉はスマートではない。私も一緒に遊ぶことで彼らの本音が分かってくる。

  3. 高い山は裾野も広い
    深く掘ろう(高く登ろう)とすると関連分野について知らないと掘れないことに気が付くのである。幅広く勉強しようと思わせるためにも深く掘ってみることが重要である。

  4. 理論より体験
    理論を教えようとするから学生はつまらなくなる。まず面白いと感じてもらうことが重要。そのためには自分で体感してもらうのが一番。時間はかかるがその方が深く根ざした記憶を学生に植え付けることが可能だ。「頭で考える前に体で考える」理論は後で良いのだ。

  5. 切磋琢磨
    教えねばならないことは勿論教える。でもあえて教えなくて良いことは教えない。一緒に考える、一緒に議論する、一緒に調査・実施する。学生達も議論させ、競争させる。どちらが正しいか、最後まで分からないほうが実は楽しく面白いのだ。

  6. 大局観をもつ
    人の「器」 その基本は「大局観」を持っているかどうかであろう。大局的に物事を考えようとすれば、より上から見た方が良いし、上から見るから全体を見渡せる。全体を見渡せば適材適所な解を求めることが出来る。学問も人生も同様である。

  7. 最後は頭ではなく、心
    確かに頭の良い人間はいる。でもその人が皆から慕われているか、信頼されているか、愛されているか、それは別であろう。最も重要なことは「心の優しさ」だと思う。今こそ心の教育が必要だと思っている。そのためには普段の講義、ゼミ活動の中で我々教員が親身になって学生達と接するプロセスを通じて、「心の優しさ」の意味を体感してもらうのが一番の方法だと思っている。

2013.01.01 渡邊隆之